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  • 著者のコラム

濱田伊織のオーストラリアに暮らしてみれば―毎日がちょっとだけ新しい #2

著者 濱田伊織

第2回:アカデミアとオーストラリアでのキャリア—仕事も子育ても?

(前回の記事はこちら)
#1 オーストラリアって、こんなに多彩

こんにちは、濱田伊織です。前回はオーストラリアの多文化についてお話ししましたが、今回は私自身の経験も交えて、オーストラリアのリアルな労働環境について紹介します。

アカデミアへの道—理想と現実

博士号を取得する人が増えている一方で、大学の正規ポジションが増えないという問題は、オーストラリアでも深刻です。私自身もこの状況に直面し、博士課程を修了した後すぐに大学の職に就くことができませんでした。アカデミックな道を進むか、それとも別のキャリアに転向するか迷いながらも、結果的にオーストラリアの大学で仕事を得ることができたのは、タイミングと運、そして失敗から得た多くの学びが重なった結果だと感じています。

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Photo by Zen Chung: https://www.pexels.com/photo/crop-faceless-diverse-students-preparing-for-exam-together-in-park-5537934/

大学職は、研究、授業準備、助成金申請、その他の校務など、やるべきことが山積みで、時間がいくらあっても足りない。でも、この仕事には自由にチャレンジできる楽しさがあるのは事実です。オーストラリアの労働環境も、現実は厳しい部分があるものの、労働環境の改善やワークライフバランスを重視する動きが確実に進んでいます。

「つながらない権利」

最近施行されたつながらない権利の法律も、その一例です。勤務時間外の連絡を無視してもOKとするもので、コロナ以降、リモートワークの普及で曖昧になりがちな勤務時間とプライベートの境界を明確にし、労働者が自分や家族の時間をしっかり確保できるようサポートする目的で導入されました。

ただ、この法律が適用されるのは主に小規模企業で、大企業や特定の業界では、引き続き勤務時間外の対応が求められることもあります。とはいえ、オーストラリアが労働者の権利を大事にして、柔軟な働き方を推進していることの表れではありますよね。

こうした動きの背景には、オーストラリアのユニオンの強い影響力があります。日本と比べても、労働者の権利を守る体制がしっかりしているように感じます。その中心的な役割を果たしているのがFair Work Commission(厚生労働委員会)です。

Fair Work Commissionって何?

Fair Work Commissionは、オーストラリアの労働関係を調整する機関。賃金や労働条件、解雇に関する問題なんかを扱っています。また、労働協約の承認や公正な労働基準の設定もしていて、労働者と雇用者の間で公正な取引が行われるようサポートしています。

例えば、最近モナシュ大学でも、ユニオンからの要請を受けて、Fair Work Commissionが職員の給与引き上げや休暇条件の改善、非正規スタッフの雇用条件の向上を決定しました。

オーストラリアでは、こうした体制が比較的しっかりしているため、労働者の権利がある程度守られていると言えます。

子育てしながら働くってどうなの?

私も二人の子どもを育てながら働いていますが、チャイルドケアの費用はかなりのもの。でも、政府のチャイルドケア補助金のおかげで、費用の一部がカバーされて助かりました。子どもたちが学校に通い始めてからは、午後3時半に学校が終わるので、それ以降は仕事を一旦ストップして、子どもたちと過ごす時間に切り替えています。その代わり、朝早く起きて自分の作業に集中するスタイルに変えました。朝の静かな時間をうまく使うことで、何とか子育てをしながら、仕事を継続しています。

よく思うのですが、一度仕事から離れてしまうと、復帰するのが本当に大変です。だからこそ、妊娠・出産・育児・介護などで難しい状況でも、家でできる仕事など、細々とでもいいので、何かしらを続けていくことがキャリアを維持する鍵だと感じています。

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Photo by Ketut Subiyanto: https://www.pexels.com/photo/cheerful-mother-working-on-laptop-near-daughter-on-couch-4473899/

オーストラリアでの成功のカギ

オーストラリアで働くには、プロフェッショナルレベルの英語力が不可欠です。特に大学では、高度な言語能力とコミュニケーションスキルが求められ、授業や研究発表、学生や教員とのやり取りがほぼすべて英語で行われます。そのため、実践を通じて自然と英語力が磨かれていきますが、ある程度の土台があるとより効果的です。ですので、今日本にいて将来英語圏で働きたいと考えている方には、できるだけ早い段階で教科書レベルの英語を超え、実践的で、洗練された英語力を高めておくことを強くお勧めします。

オーストラリアの職場は多文化的で、異文化を尊重しながら働けるのが大きな魅力です。コミュニケーションは単なる言葉のやり取りにとどまらず、異文化理解のチャンスでもあります。こうした経験が、自分自身の成長にもつながっていると感じています。

子育てとキャリアを両立させるヒント

  1. チャイルドケアの選択肢を調べる: 近くの施設を早めに見学して、最適な環境を見つけることが大事。政府の補助金も忘れずにチェックしておこう。
  2. フレキシブルな働き方を活用する: リモートワークやフレックスタイムをうまく使って、仕事と家庭のバランスを取ろう。オーストラリアの強みを最大限に活かすためにも、必要であれば雇用側に前もって相談する価値はある。理解ある雇用側であれば、合意できるところで柔軟な働き方が受け入れられる可能性は高い。もちろん、そのためには時間管理をしっかりして、仕事の能力を行動で示しておくことは必須だが。
  3. 朝の時間をフル活用する:早起きして静かな時間に自分の仕事を片付ける。私にとって、これが最大の効率アップのコツです。
  4. とにかく継続する: 一度仕事から離れてしまうと、復帰が難しくなることも。妊娠・出産・育児・介護などで忙しい時期でも、家でできる仕事やフリーランスの仕事など、少しでも外との接点を持って仕事を続けていくことが、キャリアを積み上げていくための大事なステップかもしれません。
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Photo by Torsten Kellermann: https://www.pexels.com/photo/photography-of-green-grass-field-955657/

結論

オーストラリアでも子育てしながら働くのは大変ですが、その分サポートが充実していて、比較的柔軟に働ける環境が整っていると感じます。工夫次第でキャリアと子育ての両立も十分可能です。理想と現実のギャップはあるものの、私はこの国で働いてきた経験を宝物だと思っています。

次回は、オーストラリアの職場で成功するために、英語力やコミュニケーションスキル、仕事の進め方をどのように磨いてきたかについて、さらに詳しくお話しします。お楽しみに!

(次回以降の記事はこちら)
#3 オーストラリアの職場で成功する:「Collegiality(コリージャリティ)」って?
#4 日本とオーストラリアの「つながり」と「これから」

参考文献

BBC. (n.d.). つながらない権利、オーストラリアで新法施行 [The right to disconnect, new law enacted in Australia]. BBC News. Retrieved August 28, 2024, from https://www.bbc.com/japanese/articles/cz9w45kwd5yo

Fair Work Commission. (n.d.). About the Fair Work Commission. Retrieved August 28, 2024, from https://www.fwc.gov.au/


この記事を書いた人:濱田伊織
2006年、オーストラリア政府エンデバー奨学金受賞者として、王立メルボルン工科大学修士課程でコミュニケーション学を専攻、2007年、同大学で修士号取得、成績優秀者として卒業。2012年、食と文化に関する研究を終え、メルボルン大学より博士号を取得。現在、モナシュ大学に在職。専門は社会学、文化人類学。主な研究テーマは、移民の雇用・労働問題、女性の進展を妨げる要因、食文化。主な著書に『CD BOOK 洗練された会話のための英語表現集』『CD BOOK ネイティブのひとりごと英語表現集』(いずれもベレ出版)、『中学レベルで洗練された英会話ができる本』(ダイヤモンド社)などがある。
Website: https://research.monash.edu/en/persons/iori-hamada
Twitter: @hamada_iori

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