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  • 編集部コラム

集中するための精神的ドーピング(音楽による)

基本的には音楽を聴きながら仕事をすることができません。どうしても音楽に気持ちが持っていかれてしまいます。メロディや歌詞が耳に頭に入ってきてしまう。鼻歌が出てしまったり、リズムをとってしまったり、感情移入してしまったり。とてもじゃないけどまともな仕事ができるとはいえません。通常は。でも特殊なケースが存在します。編集作業の一つにゲラの赤字が正しく直っているかをチェックする工程が何度かあるのですが、これは自分にとっては唯一、音楽を聴きながらできる仕事です。聴きながらできる、というよりも、もはや、ある特定の音楽を聴きながらでないと気持ちが入らないくらいのお話です。この作業は頭はほとんど使わなくていいけれどももちろん集中力と根気を要します。頭を使わない分、四の五の言わずに一気に仕上げなければなりません。自分の場合、なぜか分厚い本を担当することが多いため、作業開始には覚悟がいります。B4のゲラ2部(赤字の入ったものと真新しいもの)をドーンとデスクに乗せて向き合います。イヤホンを装着し、迷わずにセットする音楽が、映画『ロッキー4』のサウンドトラックです。お洒落でも高尚でも通(ツウ)な感じでもなく、ベタベタの「ロッキー」です。ボクシング映画の金字塔です。1曲目「Burning Heart」の前奏が始まった瞬間にスイッチが入ります。なんせ、ハートが燃えているんですよ。2曲目は「Heart’s on Fire」。またハートに火ですよ。薪をくべてくれるじゃないですか。一気にヒートアップして作業が進みます。このアルバム、聴きすぎてすべての曲に言及したくなるのですが端折ります。ジェームス・ブラウンの「Living in America」はとことん陽気なナンバー。でも映画のその先の展開を知っているので既に肩に力が入ってきています。アポロよ、油断しないでくれよ!案の定、ロッキーの親友アポロが試合で宿敵ドラゴに……、の後に「No Easy Way Out」が来る。楽な道なんてないんだぜ。ドラゴと戦う覚悟を決めたロッキー。「Training Montage」はロッキーがとことん自分を追い込んでいくトレーニングのシーンで流れる静かで熱いインストの曲。次は自分が負ける(殺られる)かもしれないことへの恐怖と、何より亡き友への弔いの想いにちょっとゲラの文字が滲んだりします。最後は「Man Against the World」、ピアノの前奏から始まる無骨なバラードです。ひとりで世界と闘い続けるロッキーとともに、こうしてゲラと闘い続けるのでした(大げさです)。

バンドウ

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