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ブラジル・ポルトガル語に魅せられて #1

ブラジル・ポルトガル語を学び始めた経緯

著者 田町 崎(たまち さき)

自己紹介

 はじめまして。田町 崎(たまち さき)と申します。仕事は翻訳をしています。専門はブラジル・ポルトガル語で、海外メディア報道を通じて主には中米/南米の情勢を研究しています。
 今回のnoteの企画では、自身のブラジル・ポルトガル語を学び始めた経緯に始まり、日系ブラジル人に関わること、ブラジルや周辺諸国の情勢などをお伝えしていこうかなと考えています。お手すきの際にでも、各記事をのぞいていただけると嬉しいです。

ブラジル・ポルトガル語を学び始めた経緯

 私は愛知県のある小さな町で生まれ育ちました。学生時代は勉強に集中することが苦手。毎日くたくたになるまで遊んで遊んで遊び倒していました。小学校低学年まではサッカー、それ以降はTVゲーム――振り返るとほとんど勉強せずの日々で、この流れは結局、大学卒業まで断ち切ることができませんでした。楽しかった記憶しかありませんが、今ではこれを少し悔いています。

人材派遣会社で働く

 転機となったのは大学卒業後に入社した会社です。その会社は、海外(主にはブラジル)から労働者を集め、自動車部品の製造工場などに労働力を提供する人材派遣会社でした。
 「失われた30年」などとも言われ日本経済は長い低迷期にあると指摘されていますが、私が働いていた当時は自動車製造業が好調で「労働力不足」が叫ばれていた時代でした。

職場は多くのブラジル人に囲まれた特別な環境

 営業を担当し、顧客は主には自動車メーカー。会社の派遣社員さんたちはそのほとんどが日系ブラジル人。チームで通訳者として働く同僚たちも日系ブラジル人――日本人である私は日本にいながらも圧倒的にマイノリティーで、常に多くのブラジル人に囲まれ、ブラジル・ポルトガル語をシャワーのように浴びる環境に身を置いていたのです。こう聞けば「特異」と思われるかもしれませんが、私にとっては「特別」な職場環境でした。

なかなかに大変だった仕事

 では、仕事内容はどうかというと、他のお仕事でも然りかとは思いますが、人材派遣の営業もなかなかに大変です。通常の営業活動の他に、就労ビザの管理、(ケガ・体調不良の)派遣社員さんの病院の引率、住まいと生活のサポート、(送迎バスを使った)通勤手段の確保など、派遣先の勤務に支障の出ないようにするのも私の業務内容でした。担当する工場では夜勤でフル稼働する現場もあり、夜中の2時に電話で叩き起こされトラブルに対応することも少なからずですが経験してきました。

画像
ブラジリアンタウンの一つに数えられる豊田市の保見団地内にある看板。
ブラジリアンタウンとは、日本国内にある、日系ブラジル人が多く住むコミュニティーです。このようなコミュニティー内では、ブラジル・ポルトガル語が書かれた掲示を所々で見ることができます。 ブラジリアンタウンに行き来し、徐々に顔を知ってもらう機会も増えたことで、のちには市役所、警察署、クリニック等での通訳/翻訳のお願いがいただけるようになりました。

「言語の壁」に苦悩

 そして、大変だったのは担当する派遣社員さんの多さです。私の担当だけでも何百人と抱えていたのです。この数では必然的に毎日どこかでトラブルが起きます。通訳者たちと手分けして当たっていましたが、すべては対応できません。
 さらに困ったのが「言語の壁」です。日系ブラジル人の中には日本語のできない方も数多くいるのです。通訳者がその場にいないとできない仕事も散発的に発生したため、仕事の面ではブラジル・ポルトガル語ができないことでの不自由さをたびたび痛感させられていました。

「自分でやっていくしかない」

 「自分でやっていくしかない」――多忙を極める中にしてこのように考えるに至り、私はブラジル・ポルトガル語の勉強を始めました。のちには、幸運なことに同言語に魅了されていくこととなったのですが、出発点は、何ともまあ、必要に迫られたことからだったのです。

 今回はここまでです。最後まで読んでくださり、誠にありがとうございました。次回は「日系ブラジル人」について書いていきたいと思います。

気分転換の音楽
私は音楽が大好きです。国/性別/年代/ジャンル問わず聞いています。以下、気分転換の際にでも聞いてもらえると嬉しいです。

Giulia Be(ジュリア・ビー)
2018年のデビュー以来、立て続けにヒットを飛ばしている女性シンガーです。
出身:リオデジャネイロ(ブラジル)
曲名:Menina Solta(2019年)
ジャンル:ポップ
こんなアーティストが好きな人におすすめ:
 Ellie Goulding、Alanis Morissette、Sheryl Crow、Jessie J、Jess Glynne

補足
曲が終わった直後に、「Esqueci tudo(イシュケッシ トゥド)」と言っている男性の声が聞こえます。これは、「chiado(シアード)」と呼ばれる典型的なリオデジャネイロの「なまり(sotaque;ソタッキ)」です(「Esqueci」に関しては、サンパウロでは「エスケッシ」と発音されます)。
 ブラジルは、多くのエリアでブラジル・ポルトガル語が話されていますが、発音/イントネーションに関してはその地域独自のものが存在しています。うち、シアードに関しては、実は、リオデジャネイロだけでなく本国ポルトガルでも相通ずるものなのです。
リオデジャネイロは、かつては首都としてポルトガル王室が構えた街――そういった歴史変遷が現代のシアードにはしっかりと息づいているのです。


習得に苦しんできた自身の経緯から、ブラジル・ポルトガル語の学習で苦悩する方々の気持ちは痛いほどにわかります。今回は御縁に恵まれ、ベレ出版にてブラジル・ポルトガル語の語学書を出す運びとなりましたが、この語学書はそういった方々に対し、少なからずのお役立てができればという思いを込め作成したものです。内容につき、書店等で手に取ってご覧いただけると嬉しいです。

また、ブラジル・ポルトガル語は「あらたな外国語にチャレンジしてみたい」と考える方にとっても、おすすめです。あまり知られてはいませんが、ブラジル・ポルトガル語は文法構造上、英語と似通った点が多く、英語を学んできた方にとっては非常に学びやすい言語です。英語の知識を活かして、ブラジル・ポルトガル語にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。このnoteの記事がそのきっかけになれるのであれば大変嬉しく思います。


この記事を書いた人:田町 崎(たまち さき)
翻訳者。
南山大学経済学部経済学科卒業後、人材派遣会社で日系ブラジル人たちとともに働く。これがきっかけとなりブラジル・ポルトガル語の勉強を始め、のち、市役所/警察/病院などで翻訳と通訳を経験。その後、京都外国語大学でブラジル・ポルトガル語を専攻し同大学院修士課程を修了。院生時には外務省留学プログラムに参加し、メキシコシティにあるメキシコ国立自治大学(UNAM)でスペイン語を約1年学ぶ。海外メディア報道を通じて主には中米/南米の情勢を研究している。

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