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イタリア‐「食」の魅力 第2回「ピッツァと魚介料理」

著者 本多孝昭(イタリア語通訳案内士、イタリア語講師)

 語学を学習していると、食べ物や食べることに関して会話するときが一番話しやすく、会話も弾むと感じられたことってありませんか?イタリア語でいえば、mangiare(食べる)という動詞が一番使いやすいと思われたこと、きっとおありでしょう。
 「食」は、教養やプライドの鎧を取り払って無邪気に語り合える、我々すべてに共通する日常的な文化です。ですから、イタリアの「食」に対する興味が増せば、普段着の自分のままイタリア語をもっと楽しくスムーズに学習、会話できるのではないかと思うのです。
 そのような理由から、今回私はイタリアの「食」の魅力を、旅の思い出を通して語ることにしました。

ナポリのピッツァと魚介料理

ヴェスヴィオ火山
▲ナポリから望むヴェスヴィオ火山

 「ナポリを見て死ね」という格言があるように、ナポリは実に美しい町です。燦燦とふりそそぐ太陽、温暖な気候、青く光り輝くナポリ湾、その背後にゆったりとひかえるヴェスヴィオ火山。ヴォロメオの丘に建つサンマルティーノ修道院から眺めるこのナポリの風景は、観光客の期待を裏切ることはありません。

 一方、ナポリの市街に足を踏み入れてみると、散乱したゴミ、汚れた車の二重駐車、大通りの無秩序な人の横断、センターラインを大きくはみ出しての車の走行、無意味なクラクションの騒音、歩行者の横をかすめるように走るミニバイク、治安の悪さなど、ナポリの町は、雑然、混沌、カオスという言葉がぴったり!と言わずにはいられません。

ナポリの旧市街地
▲ナポリの旧市街地

 実は、私はこのあまりに極端なふたつの姿を持つナポリにずっと魅かれてきました。何度訪れても飽きない町。そんな町って、滅多にお目にかかれません。イタリア通でさえカオスを嫌って敬遠しがちなナポリですが、私には行くたびに予期せぬ新しい発見がありそうで、そこがたまらなく好きなのです。

 私のナポリ観光は、町歩きと美味いものにありつくことのセットで成り立っています。ヴォロメオの丘へはケーブルで登ることにしましょう。サンマルティーノ修道院では、キリスト生誕の情景模型プレゼーピオの素晴らしいコレクション、ブルボン王朝時代の遺品、洗練された回廊を巡ったあと、テラスに出て高台に吹く爽やかな風を感じながらナポリの町を見下ろし、素晴らしい眺望を楽しみます。修道院を出るとそのすぐそばに、急こう配のヴォロメオ丘を下の街まで一気に下って行けるつづら折れの石の階段が見えます。こんなところを降りて大丈夫なの?と、ちょっと怖いような階段ですが、思い切って降りていきましょう。降りてたどり着く場所はにぎやかで庶民的なナポリの旧市街。野菜や果物、魚介を売る店や屋台、それにtripperiaと呼ばれる牛の胃袋などの臓物を売る店が並びます。ごった返す買い物客とその客を呼び込む店主の大声。まさにカオスです。

ナポリ旧市街地の市場
▲ナポリ旧市街地の市場

 しばらく歩くと、有名なスパッカ・ナポリという旧市街に出ます。Spacca Napoliと書くのですが、spaccaはspaccareという動詞(「真っ二つに割る」という意味)から派生した言葉。ヴォロメオの丘からスパッカ・ナポリを眺めると、そこを走る狭い道が断層のごとく、ナポリの中心街を真っ二つに切り分けたように見えるのです。スパッカ・ナポリ界隈には私のお勧めがたくさんあります。個性豊かな教会やマヨルカ焼きの回廊、大理石の彫像が見事な礼拝堂、ローマ時代の遺跡や地下都市、プレゼーピオの工房、人気のピッツェリア、ナポリ菓子を売るバールなど、観光にグルメに楽しみ満載です。

 スパッカ・ナポリにはちょうど昼食時をはさんで訪れたいものです。もちろん私のお目当てはピッツァ。この辺りにはソルビッロ、ディ・マッテーオ、マットッツィ、ロンバルディなど、有名なピッツェリアがひしめいていますが、私はソルビッロかディ・マッテーオがお気に入りです。ソルビッロは三代続く老舗で、子孫21人がすべてピザ職人というすごい家系だそうです。店頭には人だかりができていて、まずは予約リストに名前を書いてもらい順番を待ちます。順番がきたらマイクで呼んでもらえます。ディ・マッテーオはかつてアメリカの某大統領も訪れたとか。ピッツァだけでなくズッキーニの花のフライなど、揚げ物も有名です。私はどんな時でもトマトソースをベースにモッツァレッラチーズとバジリコの葉をトッピングした、ピッツァ・マルゲリータを注文することにしています。これがピッツァの原型であり、定番でありどんな店でもメニューにあって、これを食べることでそれぞれの店の味が比較できる、という理由からです。

マルゲリータ
マルゲリータ
▲ピッツァ・マルゲリータ

 その二軒の近くにはナポリの銘菓ババとスフォリアテッラで有名なカフェもあります。ナポリの濃厚なエスプレッソ一杯だけで店を後にするのは実にもったいない。ドルチェもぜひ賞味していただきたいものです。ババはいわゆるサヴァラン。リキュールに浸していただきます。スフォリアテッラは、兜の錣(しころ)を連想させるような、貝殻の形をしたカリカリに焼き上げたパイで、中にはリコッタチーズやカスタードクリーム、アーモンドクリームを混ぜたものが入ります。フランス菓子のような華やかさはありませんが、イタリア菓子独特の素朴さが私は好きです。

バール
▲バールでお菓子を食べているおじいさん

 夜はといえば、ナポリの漁港で水揚げされた新鮮な魚介を使った料理に舌鼓です。ナポリ旧市街の喧騒から少し離れた海岸通りの近くにある、漁師さん経営の海鮮料理店ダ・ドーラなら、流しのナポリ民謡を聴きながら、タコの煮物、エビ、イカ、イワシなどの魚介類のフリット、トマトソースの魚介のリングイーネなど垂涎のナポリ料理が味わえます。食べるたびに思うのは塩の味です。日本のこの手の料理の塩味と何かが違うのです。塩のうまみを存分に使って魚のうまみまでしたたかに引き出すナポリ料理、恐るべしです。

ナポリのレストラン
▲ナポリのレストラン
魚介料理
▲ナポリの魚介料理

記事を書いた人:本多孝昭
京都大学法学部卒業。
イタリア文化の真髄に触れてみたいとの一心から独学でイタリア語を学び、現在は、日伊学院でイタリア語の文法や和訳を指導するかたわら、翻訳・通訳にもたずさわる。イタリア語通訳案内士。
著書に『MP3 CD-ROM付 本気で学ぶイタリア語』、『CD BOOK 本気で学ぶ中級・上級イタリア語』、『[音声DL付]例文と覚える イタリア語必須イディオム・連語1493』(ともにベレ出版)がある。

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