検索
  • 著者のコラム

【古典ギリシャ語をはじめませんか?】第1回:意外と身近な古典ギリシャ語

著者 堀川宏

なんとなく心惹かれるけれど「難しい」とも言われる古典ギリシャ語ですが、実際に学んでみると楽しいことが色々あります。このnoteでは私が面白いと思うことを中心に、あれこれ記してみようと思います。ぜひくつろいだ気持ちでお読みください。

 α、β、γ、δ ......このようなギリシャ文字は、数学や物理の教科書などで、また最近では新型コロナウィルス関係のニュースでも目にします。英語などで馴染みのあるラテン文字とは一風変わった、独特の見ためをした文字の姿に、なんとなく憧れを覚える方も多いのではないでしょうか。ギリシャ語は今でもこの文字を使って綴られますが、今日はちょっと古い時代のギリシャ語――今から2500年ほど前に使われていたギリシャ語――についてお話しすることにします。

古代ギリシャ語

 紀元前5世紀から4世紀にかけて、古代ギリシャのアテーナイ(現在のアテネ)を中心とする地域で使われていた言語を「古典ギリシャ語」といいます。この時代のアテーナイはギリシャ文化の中心地として栄え、有名なパルテノン神殿が建設されたり、ソクラテスやプラトンといった哲学者や、三大悲劇詩人をはじめとする詩人たちが活躍したりしました。古典ギリシャ語を学ぶと、彼らの残した言葉に直接アクセスできるようになります――残念ながらソクラテスは著作を残しませんでしたが。

 このように書くと、古典ギリシャ語というのはずいぶん古くて、難しそうな言語だと思うかもしれません。けれどこの言語は意外なほどに、私たちの身近なところに息づいています。たとえば「電話」は英語でtelephoneですが、これはギリシャ語で「遠く」を意味するτῆλε(テーレ)と「声」を意味するφωνή(ポーネー)とからできています。また夏を彩るヒマワリには、やはりギリシャ語で「太陽」を意味するἥλιος(へーリオス)と「花」を意味するἄνθος(アントス)からなる、helianthusという名前があります。もとになったギリシャ語の意味を知ると、ごくありふれた身近なものが、ちょっと変わった顔を見せてくれるような気がします。

 あるいはdrama、theater、orchestra、harmonyなどの英語もギリシャ語に由来します。drama(演劇)は「行為」を意味するδρᾶμα(ドラーマ)に、theater(劇場)は「観覧席」を意味するθέατρον(テアートロン)に、orchestra(楽団)は「歌舞の舞台」を意味するὀρχήστρα(オルケーストラー)に、harmony(ハーモニー)は「調和」を意味するἁρμονία(ハルモニアー)に、それぞれ由来する語です。英語とギリシャ語とのあいだにある意味の類似や違いに気づくことも、なかなか楽しいのではないでしょうか?他にも「数学 math」の語源が「学び」を意味するμάθημα(マテーマ)であったり、「円周率」の記号πが「円周」を意味するπεριφέρεια(ペリペレイア)の頭文字であったり、さらには「哲学 philosophy」のもとになったφιλοσοφία(ピロソピアー)が、「愛する」を意味するφίλος(ピロス)と「知」を意味するσοφία(ソピアー)からできている――つまり哲学とは「知を愛する」こと――など、面白い繋がりがたくさんあります。

テアートロン

 古典ギリシャ語を学ぶメリットは様々ありますが、私がまず挙げたいのは、ここで紹介したような嬉しい発見があれこれできるということです。これらの発見に伴うのはおそらく素朴な楽しさですが、その楽しさは私たちを次なる学びへと促してくれます。そしてそのような学びを重ねることで、試験や資格取得のための勉強とは異質の、自身の心を明るく喜ばせるような勉強があるのだと気づけるように思うからです。


記事を書いた人:堀川宏(ほりかわ ひろし)
獨協大学専任講師。1981年山梨県生まれ。2012年京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。2016年京都大学博士(文学)。訳書として『古代ギリシャ語語彙集–––基本語から歴史/哲学/文学/新約聖書まで』(共訳、大阪公立大学共同出版会)と『アポロニオス・ロディオス アゴナウティカ』(京都大学学術出版会)、著書として『しっかり学ぶ初級古典ギリシャ語』『反「大学改革」論–––若手からの問題提起』(共著、ナカニシヤ出版)がある。

学びたい人応援マガジン『まなマガ』

ベレ出版の新刊情報だけでなく、
「学び」に役立つさまざまな情報を月2回お届けします。

登録はこちら

ベレ出版公式SNS

週間ランキング情報やおすすめ書籍、書店様情報など
お知らせしています。ベレ出版マスコット犬「なみへいさん」の
LINEスタンプが登場!