【日本語と韓国語の言葉は本当に似ているの？】第4回韓国の俗信物語

著者　チョ・ヒチョル

　俗信は日常生活に深く根を下ろし、人々が無意識のうちに守っているものもあります。韓国の俗信は日本と共通のものもあれば、似て非なるものもあります。また、世代によっては知らない内容や守らなくなっているもの、新しく生まれてくるものもありますが、ここでは韓国の代表的な俗信をいくつか紹介します。

　一昔前、ソウルの街を走っていたSONATAという韓国産の車のエンブレムからSという文字がはぎ取られる事件が相次いでいました。それは当時、エンブレムのSという文字を持っていればソウル大学に入れるという俗信が流行っていたからです。

　「夜、口笛を吹くと蛇が出る」、「くしゃみをするとき、他人に噂をされている」など、日本にも古くから伝わる俗信がたくさんありますが、韓国にも日本の俗信と似ているものもあれば独自のものもあります。

　「茶柱が立つのは縁起がよい」、「三人で一緒に写真を撮ると真ん中の人が死ぬ」、「畳のへりを踏んではならない」などの俗信は韓国では耳にしないものですが、「カラスが鳴くと死者が出る」、「食事をしたあとすぐ横になると牛になる」、「北枕は縁起が悪い」などはまったく同じです。

　また、日本では「くしゃみをするとき、他人に噂をされている」と言われますが、韓国では「耳がかゆいとき、他人に噂をされている」という俗信があります。

　俗信からは、その民族の人生観やものの見方、または宗教観などの精神世界を垣間見ることができます。古くから伝えられ、信じられてきた俗信の中には、現代社会において退化していったもの、依然として広く信じられるものがあり、さらに新しく生まれるものもあります。

　俗信の起源を調べることは容易ではありませんが、日本起源のと思われるものの中から、韓国で広く根付いているものをいくつか紹介します。

・下の歯が抜けると屋根の上に投げ、上の歯が抜けると竈に入れる。
・ご飯を食べてすぐ横になると、死んでから牛になる。
・二つ栗を食べると双子が生まれる
・火遊びをするとおねしょをする。
・午年生まれの女性は気が強い。
・夜、口笛を吹くと蛇が出てくる。

　韓国の俗信の中には、独自の文化風土から生まれ、一昔前まで様々な面で人々の行動を制限してきたものもあります。次の俗信は韓国独自のものと思われ、朝鮮半島全土で広く伝えられてきたものです。

・赤い字で名前を書かれると死ぬ。
・男は手羽先を食べると浮気をする。
・朝カササギが鳴くと大事なお客さんが訪ねてくる。
・石仏の鼻を粉にして飲むと男の子が生まれる。
・法事の日、洗濯紐を取り込まないと、霊がそこにひっかかる。
・眼の小さい人は度胸がある。大きい人は臆病である。
・ハンカチをプレゼントすると涙で別れる。
・彼女に靴をプレゼントするとその靴を履いて新しい恋人を見つけに行く。
・結婚式で新婦が笑うと長女が生まれる。
・ご飯のお替わりのとき、一回だけよそうのは薄情だ。
・背の高い人はよく軽口をたたく。

　上の俗信の中でも、「赤い字で名前を書くと死ぬ」や「彼女に靴をプレゼントするとその靴を履いて新しい恋人を見つけに行く」、「ご飯のお替わりのとき、1回だけよそうのは薄情だ」などは、いまだに社会一般に根強く、市民権を得ているもので、若い人も信じている場合が多いです。

　また、受験に関するものが多いのも特徴的です。

・受験前に髪や爪を切ってはいけない。
・受験前に生卵を食べてはいけない。
・受験前にわかめスープを飲んではいけない。
・受験前に朝鮮飴や餅を食べると縁起がいい。・受験会場にタクシーに乗って行ってはいけない。

などは古くからありましたが、
・朝鮮飴を志願大学の正門に張り付けると合格する。
・受験の百日前にお酒を飲むといい点数が取れる。
・勉強のできる子の座布団や文房具を持っていればいい点が取れる。

などは、割と新しいものです。

　最初にご紹介した「SONATA」の一件もご多分にもれず。

　結局、受験に関する新しい俗信の誕生も競争の厳しい韓国社会において受験の恐怖から逃れたいという若者の気持ちから作られてきたものでしょう。

記事を書いた人：チョ・ヒチョル
「お、ハングル！」主宰、元東海大学教授。
2009年～10年度NHKテレビ「テレビでハングル講座」講師。
著書に、『本気で学ぶ韓国語』『本気で学ぶ中級韓国語』『本気で学ぶ上級韓国語』『わかる！韓国語基礎文法と練習』（ベレ出版）、『1時間でハングルが読めるようになる本』『1日でハングルが書けるようになる本』（学研プラス）など。