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【ドイツを想う】第3回 ドイツになくて切なかったもの ~正月の飾り、桜、紅葉~

著者 宍戸里佳

 ドイツに長く住んでいると、日本のものが恋しくなったりもします。よく言われるのは、食べ物、テレビ、本、といった感じでしょうか。(今はインターネットが発達しているので、テレビや本は、恋しくならないのかもしれませんね。)

 幸いに私は、子どもの頃からドイツ生活が長かったので、留学していた時期にも、日本の食べ物が恋しくなることは、ほとんどありませんでした。お米は1か月に1回くらい炊いただけ。ドイツの空気の中にいると、不思議と、日本食を食べなくても生きていけるものです。

 ところが1つだけ、無性に食べたくなったものがあります。夏になると(夏でなくても)、日本でならどこでも食べられるもの。意外だと思われるかもしれませんが、ソフトクリームです。ドイツには、アイスクリーム屋さんはたくさんありますが、なぜかソフトクリームは売っていないのです。ザルツブルクへ行ったとき、ソフトクリームが売っていたので、とてもうれしかったことを覚えています。(ザルツブルクは隣国オーストリアです。)

 ドイツで1年、また1年と暮らしていると、季節が巡っていきます。長い冬が終わって迎える春、太陽が輝く夏、空気が冷たくなっていく秋、というように、ドイツにも四季はあるのですが、日本とまったく同じ、というわけにはいきません。留学先のマインツで6年半を過ごし、食べ物やテレビや本は恋しくならなかったものの、季節の移り変わりに関しては、日本を思い出して切なくなる瞬間が年に3回ありました。

 その筆頭に挙げられるのは、なんといってもお正月です。ドイツではクリスマスを厳かに祝い、その気分のまま新年を迎えます。大晦日には大騒ぎをするものの、街中の飾りつけはクリスマスのままです。1月の第1週にはまだ、クリスマスツリーが街のいたるところに残っています。元日だけは祝日ですが、2日からは平日に戻り、会社員たちは出勤し、お店も開きます。つまり、日本のお正月のような華やかさは、どこにもないのです。

雪景色
▲住んでいたアパートから見た雪景色。1月初旬だが正月らしさはない。

 留学当初は、これがなんとも切なかったです。クリスマスが終わっても、新年を迎えても、クリスマスツリーが残っている。お正月らしさが、街中のどこにもない。お正月の伝統行事もない。(実際にはクリスマスは「終わって」おらず、1月6日の公現節、もしくは2月2日のマリアお清めの日まで続きます。年の変わり目は、クリスマスとは関係がないのです。)そして、1月の第2週に入るとクリスマスツリーが片づけられ、もとの風景に戻ります。

 次に切なくなるのは、春です。ドイツの春は、いろいろな花が一斉に咲き出します。日本のように、冬にも咲いている花があって、春先のまだ寒いうちから梅が咲き始めて…、といったような順序はありません。そんな中、ドイツの桜も花を咲かせるのですが、日本のソメイヨシノとは違ってピンク色が濃く、満開になる一歩手前で葉が出てくる種類もあったりして、なんとなく落ち着かないのです。このときばかりは、日本がいいなあと思ったものでした。(ちなみに現在は日本にいるので、春になると、日本の桜を眺めては、日本だなあ、としみじみ感じます。見るだけで、幸せな気分になります。)

マインツ郊外の春
▲マインツ郊外の春。こちらはピンク色が濃い種類の桜。

 そして最後は、秋の紅葉です。ドイツには葉が「紅く」なる木が少ないので、秋になると見られるのは、おもに「黄葉」です。しかも、常緑樹も多いので、なかなか山全体が秋色に変わることもありません。そのため、やはり物足りなく感じます。秋が深くなって山が燃え盛るあの光景は、非常に日本的なのです。

マインツ近郊の山里の秋
▲マインツ近郊の山里の秋。日本の感覚では「色が足りない」気がする。

記事を書いた人:宍戸里佳
桐朋学園芸術短期大学非常勤講師(音楽理論)、昴教育研究所講師(ドイツ語)。専門は音楽学。
著書は『英語と一緒に学ぶドイツ語』『しっかり学ぶ中級ドイツ語文法』『他言語とくらべてわかる英語のしくみ』(以上、ベレ出版)、『大学1・2年生のためのすぐわかるドイツ語』(東京図書)、『基礎からレッスン はじめてのドイツ語』(ナツメ社)など。

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