2007.11.20 著者のコラム 気持ちよくわかる数列朝香豊 江戸時代の日本の数学の水準はどんなものだったと思いますか。実は非常に高かったんです。国民全体の水準で考えたら、当時の世界No.1だといっても過言ではないでしょう。日本には寺子屋などが発達しており、一般庶民まで広く数学に親しんでいました。 江戸時代の早い時期に既に「塵劫記」という数学書が出ているのですが、これがミリオンセラーといってよいくらい普及しました。平方根の求め方(開平法)や立方根の求め方(開立法)まで載っていますから、かなりレベルが高いわけですが、このようなものに江戸時代の庶民が親しんでいたというのは驚きですね。 数学者にしても関孝和など傑出した人物が登場しました。関孝和は高次方程式の解の近似値を出すのに、微分にきわめて近い方法を独自に生み出していましたし、行列の概念も独自に考察し、行列式を利用して連立方程式の解を求めるようなことまでやっています。ベルヌーイ数と呼ばれる数学上大切な数がありますが、これをベルヌーイよりも先に発見していたのも関孝和です。 こんな感じで日本の数学は、ヨーロッパの数学に全く触れることのないままに、当時のヨーロッパの水準と肩を並べ、一部ではそれを追い越していたといえるわけです。数式の表記はもちろんヨーロッパのものとは全く違っていたわけですが、高度な数学を理解する素地は国民の間に広く行き渡っていたのです。 日本は幕末期に開国し、ヨーロッパの技術や学問が大量に流れ込んできましたが、日本がこれを短期間のうちに身につけ、世界の先進国と伍する国になっていけたのは、国民全体の中に数学を含めて高度な知識を吸収していける教育的基盤が整っていたということが、とても大きな役割を果たしたからだといえるのです。このように歴史を振り返るとき、教育の果たす役割の大きさを感じずにいられません。 以上は「気持ちよくわかる数列」に記載されたコラムの1つです。(但し、一部編集されています)本書を気持ちよく楽しんでいただければ、著者としてとっっっても嬉しいです。(^^ 関連書籍 気持ちよくわかる数列 身近な話題を中心に数列を学びなおし、数に強くなる 朝香豊数学