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ポンポン話すための瞬間英作文 パターン・プラクティス
森沢洋介

写真:ポンポン話すための瞬間英作文 パターン・プラクティス

外国語を実際に使えるようにするためには、言語(少なくとも自然言語ならば)の正体は音であることを知り、音声的な訓練をすることが必須です。そのための方途として、リスニング、音読などは極めて効果的なトレーニングです。しかし、学科としての英語、文字だけによる暗号解読的学習に満足せず、音声的トレーニングをしっかり行う学習者も見過ごしがちなのが、簡単な英文を口頭で迅速に、沢山作るという訓練です。これを怠ると、英文が速読でき、聴いて理解することもできるのに、言いたいことが英語で言えないという状態に陥ることになります。

この状態からの突破口となるのが、瞬間英作文です。簡単な英文を無数に口頭で作るという方法は、別に私のオリジナルではなく、行う人は昔からしっかりと行い効果を上げていたメソッドです。しかし、他の訓練を行うことを厭わない学習者が、このトレーニングに関しては、敬遠したり、気付かなかったりする傾向があります。20代半ばまでの私は、そうした一人でしたが、瞬間英作文を集中的に行うことで、頭で理解しているだけの文型が実際に使えるようになるという、大きなブレークスルーを迎えることになりました。

自分の英語塾を主宰するようになってから、自分の轍は踏ませないように、瞬間英作文を塾生の学習・トレーニングに早期から組み入れ、指導してきました。ここで、困ったのが教材の不足です。音読やリスニングの教材は書店に行けば選択に苦労するほど溢れているのに、瞬間英作文用の教材は実に希少なのです。優れた教材もあるにはあるのですが、表現集も兼ねていて、気の利いた文句や難しい語句を盛り込み過ぎていることが皮肉なことに仇になってしまうのでした。

簡単な文型を自由に操る練習をしたいのに、こうした表現が負荷・足枷となって、かえって文型練習の妨げになってしまうのです。基本文型を瞬間的に操作できない―つまり「瞬間英作文回路」の敷設が済んでいない―学習者は、あまり色気を出さず、まずは知りつくした語句だけが使われている、ごくごく簡単な例文を使うのが効率的です。そこで、私は、およそ学校で英語を学んだことがある人ならば知っているだろうという簡単な単語だけを使ったオリジナルの教材を作成することにしました。これによって、生徒たちのトレーニングの効果は確実に上がっていきました。このオリジナル教材を書籍化したのが、「どんどん話すための瞬間英作文トレーニング」「スラスラ話すための瞬間英作文シャッフルトレーニング」です。幸いにして、この両書は思いがけないほどの好評を博すこととなりました。簡単な英文を沢山作るというトレーニングの重要性・効果に多くの学習者に気付いていただいたこと、また従来のテキストの使用が困難だった方のために、それらへの橋渡しができたことは深甚です。

瞬間英作文テキストの第3弾となる「ポンポン話すための瞬間英作文パターン・プラクティス」も現場での必要から生まれた教室のオリジナル教材が原型です。先行の2冊は日本語文をそっくり英文に変えるドリルですが、生徒の一部に、日本語に引っ張られてしまい、日本文に対応する英文を単純に暗記してしまい、効果が上がりにくい人が少なからず現れました。この問題を解決するために取り入れたのが、文をそっくり英語に変えるのではなく、元の文を微妙に変化させていくパターン・プラクティスです。

パターン・プラクティスは、数十年前に盛んに使われた学習法ですが、現在では時代遅れの骨董的メソッドとされているようで、この手法を使った教材は実に少なくなってしまいました。そこで、再び、私はパターン・プラクティスのオリジナル教材をせっせと作成することになりました。結果は苦労の甲斐のあるものでした。日本語から英語への丸ごと変換で効果を上げられなかった生徒たちがしっかりと瞬間英作文回路を獲得していったからです。元の文を少しずつ変化させていくという手法のため、日本語の使用が最小限にとどめられ、日本語に引きずられたり、機械的暗記になってしまうということが起きなくなったこと、前文を微妙に変えていくだけなので負荷が著しく軽く、瞬間英作文トレーニングの命であるスピードが確保されることなどが好結果の原因です。

若い学習者の中にはパターン・プラクティスというメソッドを初めて知る方も少なくないでしょう。次々と現れ喧伝される先進的な学習メソッド、スマートな理論の波に押し流され、忘れ置かれた感のある、そして、ある意味極めて機械的なメソッドですが、学習のある時期にしっかりと取り組む価値のあるものだと思います。日本文→英文への丸ごと変換に苦労し、効果を上げづらかった方は是非試して下さい。異なった刺激のトレーニング効果を実感できるに違いありません。

言うまでもなく、外国語の運用能力は、短期間、何か一つの方法なり、教材なりを行うことで達成させるものではありません。それは、複数の方法を有機的に繋ぎながら、漸進的に向上させるしかありません。こうした現実と実際の方法論は、ベレ出版様から最初に上梓させていただいた「英語上達完全マップ」で、詳しく説明しました。私自身が、瞬間英作文で大きな飛躍を得られたのは、それ以前に行っていた音読・多読他で培ったストックが豊富にあったことが大きな要因です。

瞬間英作文は、英文を反射的に作る「瞬間英作文回路」を養成するトレーニングです。しかし、瞬間英作文回路が完成したからといって、それだけで流暢に会話ができるものではありません。自在な会話力には、これに加えて、運用語彙、実際の会話による慣れなども必要だからです。つまり、瞬間英作文回路は、自由に英語を話すための、「必要十分条件」ではなく、「必要」条件だということです。走ることができる前に、立ち上がり、歩く筋力が必要なのは、誰でもわかることだと思います。
瞬間英作文トレーニングは、大きなジグゾーパズルの欠かすことのできないピースの一つです。他にも音読やリスニングや多読とパズル全体を完成させるためのピースがあります。これらのピースを一つずつ、丹念にはめていくことが外国語学習の実像です。

結局、触れるものを一瞬にして黄金に変える魔法の杖など存在しないのです。しかし、一つずつピースを嵌め続ければ、パズルは完成します。そして、英語学習のパズルが完成し、英語で外国の人々と自由に会話を楽しんだり、翻訳を介さず英語を原書で楽しめるようになった時感じる喜びは、黄金のまばゆさを凌ぐものでしょう。

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