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ついつい会話に使ってみたくなる四字熟語
田中春泥

写真:ついつい会話に使ってみたくなる四字熟語

“総ルビ“の夢よ、もう一度!!     田中春泥
「ベレ出版」様から、『書けなくてもいいけど読みたい漢字』と『ついつい会話に使ってみたくなる四字熟語』の二冊の漢字の本を出していただいたが、それにつけても、つくづくと思い知らされるのが、最近の日本人の漢字力の低下である。
 これは何も他人事(ひとごと)ではない。僕も、そもそもが“漢字が読めない情けない大学生”で、当時、都立大泉高校の女の子と上野・アメ横あたりでデートした時、”上野恩賜公園“の“恩賜(おんし)”という常用漢字が読めず、「オン、オン、オン!?」と絶句して、彼女に、「あなた、ホントに早大生!?」と呆(あき)れられた苦い経験があるのである。
 では、何で、そういうことになってきたのか!? 実は、その最大の原因は、日本の出版物における“総ルビ文化”の絶滅にあるのではないかと思われる。
 その昔、太平洋戦争以前の日本の雑誌や出版物の多くでは、総ルビが当たり前であった。つまり、ページ上のすべての漢字にルビがふってあるのである。だから、子供でも大人の“エッチ”な本がスラスラと読めたし、さほど教育のない人でも、教育のある人にほとんど負けないように“小難しい”本も読みこなせたのである。
 なお、これについては面白い話がある。当時、印刷所というところには“ルビふり”という仕事があって、売れない作家の嘉村(かむら)礒多(いそた)などは、朝一番の電車で印刷所へ行き、“ルビふり人”として、一日中、ほかの売れっ子作家たちの原稿にルビをふっていたそうである。
 ところが、戦後は、そのありがたい“総ルビ文化”がきれいさっぱり絶滅するとともに、お国の方針として、難しい漢字はなるべく使わないようにしようという”漢字制限運動“が、しきりに推進されるようになった。だが、これは考えてみれば“愚民政策”以外の何物でもなく、人民を馬鹿(ばか)にし切った話なのである。
 そこで僕は今、遅(おそ)蒔(ま)きながら、”漢字制限“の撤廃と“総ルビ文化”の復活とを切に提唱したいのである。
 「難しい漢字を使いたい放題に使ってやろうではないか。ただし、その漢字には、きっちりとルビをふって、それを万人共通の教養にしてやろうではないか」――これが、日本人が本来の世界に冠たる漢字力を取り戻すための唯一の道なのではないかと思うのだが、いかがなものであろうか。
 ちなみに、そうなったら、僕も“ルビふり人”として印刷所に雇っていただき、楽しく老後のお小遣い稼ぎをさせていただきたいものだと思っている。

(原文では括弧内の文字が“ルビ”としてふられています。)

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