「社会人」に一休み、中国留学してみれば　第3集

著者　林屋啓子

中国の休日事情

私が留学していたころの中国は単独の祝日がほとんどなく、代わりに年3回の大型連休がありました。1月か2月の春節（旧正月）、5月1日からのメーデー、10月1日からの国慶節（建国記念日）です。メーデーや国慶節は公的には3連休ですが、1週間の休日になるところが多いのです。ただ、この休みを捻出するために、大学では「月、火、水、木、金、金、月、月」という地獄のスケジュールが組まれました。宿題が多い上に出席率も悪くなり、休み前はふらふらです。

汽車は一大社交場

14億人がほぼ一斉に休みとなるので、当然ながら交通機関のチケットは熾烈な争奪戦となります。私も休みになると何とか手に入れた「プラチナチケット」を握り締め、ごった返す駅の厳しいセキュリティを抜けて汽車の旅に出かけます。

広大な中国では、１日以上乗車することも珍しくありません。誰もが暇を持て余し、二段ベッドの下の段に数人が腰掛けて話し始めます。「俺のベッドだ、勝手に座るな！」などと言い出す人はいないようです。もちろん私のような「留学生」は格好の暇つぶしの相手。あれこれ質問されるので、習った単語を総動員して何とか話をしてみます。たどたどしくてもできるだけ実情を伝えたいので、例えば日本人の収入について聞かれると、初任給と合わせて「おにぎり」「スイカ」「電車賃」「家賃」など具体的な物の値段も伝えます。すると「なんだ、日本人も苦労してるんだな」と親近感を持たれたりします。一度、歴史問題が話題になったこともありましたが、「私たちも学校で学んだよ」と言うと「そうか、知っているならいいんだ。安心した」との返事がありました。

話をしていた人が先に降りるときには、「困ったことがあれば連絡してきなさい」と名刺を渡されることがあります。また、「この子は外国人だから、困ってたら助けてやってくれ」と近くの人に「引継ぎ」をしてもらうこともあります。中国の人たちは、一度知り合いになると非常に頼もしいのです。

小記者たちのインタビュー

あるとき、近くにいた男性から「もしかして、日本人？ちょっと協力してくれない？」と言われました。彼は新聞社の職員で、小学生から高校生の子供たちを社会見学に連れていく途中なのだそうです。確かに揃いのTシャツを着た子供たちが車両から車両へと走り回っています。彼ら「小記者」のエネルギーが有り余っているので、職員の男性が「外国人にインタビューしてみよう！」という企画を思い付いたのです。

小記者は150人もいるそうで、男性が「第一組！」と号令をかけると、たちまち十数人の子供たちが私を取り囲みました。「日本人に会ったことのある人はいるかな？」と聞くと、一斉に「あなたが初めて！」と返してくれます。そこからは彼らの質問タイム、真新しいノートを手に、みんな真剣そのものです。「どうして中国に来たの？」「中国のどこが好き？」から始まって、「中国と日本の子供たちはどこが違うの？」など両国を比較した質問もあります。日本のアニメや漫画を見て育った彼らは日本の文化も良く知っていて、「豆まきってどうやるの？」「将来日本に行きたいんだけど、どこの桜がおすすめ？」と聞いてきたりします。中には「生の魚、食べられる？」と質問して、周りから「バカだな、日本人なら食べるに決まってるじゃないか！」とやり込められる子もいます。中高校生になると「両国が互いに学ぶべきところはどこだと思いますか？」というような質問をして、私の答えに力強く頷いてくれたりもします。大勢の子供たちとこんな話ができるとは、なんて素敵な巡り合わせでしょう。

すべての組のインタビューが終わると、職員の男性は新聞社に報告の電話を入れ、「小記者の旅は毎日新聞記事になるんだ。明日の主役は君だよ」と言ってくれました。今回の出来事は、思わぬ「オマケ付き」のようです。

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記事を書いた人：林屋啓子（はやしや けいこ）
社会人になってから中国語に興味を持ち、仕事を辞めて中国で2年半の留学生活を送る。北京語言大学卒業後は中国語学習雑誌『中国語ジャーナル』（アルク）の編集を8年にわたって担当。また、中国語学習書・教材の企画、制作、編集、校正などを数多く手掛ける。著書に『「社会人」に一休み、中国留学してみれば』（文葉社）、共編著に『選抜！中国語単語 常用フレーズ編』（相原茂 朝日出版社）がある。