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そうだラテン語をやろう!第4回

著者 ラテン語愛好家 山下太郎

ラテン語は教科書、辞書、参考書があれば独学できます。教科書の通読は欠かせませんが、すでに学校で英語を勉強した経験がある人は、英文法の知識があればこそ、説明文を読んでも理解できます。教科書を読みながら辞書の使い方が会得できます。あとは対訳を使えば原典講読ができます。コツは挫折しないこと。単語も語形の変化も「調べてわかればよし」と割り切れば、ラテン語は生涯の友となるでしょう。このコラムはラテン語独習のヒントをお伝えします。

日本の英語学習法はラテン語教育にそっくり

「ラテン語に興味があるのですが難しいんでしょう?」と聞かれることがあります。「難しくない」とは言えませんが、少なくとも二つの点で日本人にとって「取り組みやすい」言語だと思います。一つは、発音がローマ字読みを基本とする点で与しやすいこと。もう一つは、日本人が長年にわたって培った文法訳読方式による英語の学習スタイルが、ラテン語を学ぶ上でおおいに役に立つことです。文法に重きを置いた日本の英語教育は「読めても話せない」と不評です。それもそのはず、あれは欧米のラテン語教育そっくりです。欧米人がラテン語を学ぶのは、カエサルやキケローなどの古典作品を直に「読む」ためであり、死んだ彼らと「話す」理由はありません。「なぜ日本人は英語を話せないか」と欧米人に聞かれたら、「ラテン語を学ぶように学ぶから」と答えると「なるほど、そうだったのか」と合点されます。英語の四技能を高めるには、英語をスポーツの練習のように、あるいは音楽の楽器練習のように取り組むほうが、文法訳読方式一点張りより効率はよいでしょう。その結果英語が流暢に操れるようになることは歓迎すべきことですが、他方で文法をおろそかにする傾向が強まれば、それだけラテン語を学ぶ敷居は高くなるでしょう。逆に言えば、旧来の英語教育を受けた世代にとって、あるいはこれからも英文法を丁寧に学ぶ者にとって、ラテン語の敷居は想像以上に低いことを強調したいです。

ラテン語は付き合い方次第で敷居が低くも高くもなる

「でも、やっぱりラテン語は難しいのでは?」という声が聞こえます。「ラテン語は難しい」というイメージがあるとすれば、それは欧米人が作ったイメージです。欧米の文学作品を紐解くと学生時代にラテン語で苦しめられたエピソードがたくさん見つかります。日本でラテン語を学ぶ人口はごく少数であり、学んだことのない人が大半なのに、「ラテン語は難しい」と口にする人が多いのは興味深いことです。その反対に英語で苦しんだ経験を持つ人は圧倒的に多いと言えるでしょう。その英語のネイティブ・スピーカーはいわば「先生」のような存在で、その彼らが口をそろえて「ラテン語は難しい」と言うからには、ラテン語は英語以上に難しい(=自分にはとうてい無理)と頭の中で勝手に思い込むのだと推理します。いわゆる「食わず嫌い」というやつです。たしかにラテン語を正しく読むには、一字一句の文法的理解を正確に行う必要があります。文法の教科書はいわば「地図」のようなもので、地図を広げて目的地を調べるには時間がかかります。英会話の場合、そうした行為によって会話の相手を待たせることはできません。しかし、ラテン語の場合は古典作品を「読む」ことに専念できます。じっくり時間を使って調べても誰も文句を言いません。ラテン語は付き合い方で敷居が高くも低くもなる言語です。地図を調べて目的地に近づくことを喜びに変えることができれば、多くの日本人にとっては、すでに英語学習で培った文法訳読の経験が生かせるでしょう。

ラテン語読解の半分は日本語の力

ラテン語学習の目的地が、カエサルやキケローの書いた文章を読んで理解することだとすれば、その難しさの半分は文法の理解において生じ、残りの半分は文脈の理解において生じるというのが私の実感です。前者を支える根っこが英文法の理解力であり、後者の理解力とは一言でいえば日本語の読解力そのものと言えるでしょう。ためしに翻訳を読んでも、この力のあるなしによってカエサルやキケローの文章は難しくもなり、面白くもなります。論より証拠。一度ラテン語の教科書を立ち読みしてみてください。例文の多くは古典作品から採られた名言名句です。英文法をひととおり学び、古典作家との「対話」(会話にあらず)に関心を持つ人が学べば、ラテン語は想像以上に取り組みやすく、何より人生を豊かにする面白い言語だと合点できるのではないでしょうか。


記事を書いた人:山下太郎
「ラテン語愛好家。1961年京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程学修退学。専攻は西洋古典文学。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。
問い合わせ先 https://aeneis.jp

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