2024.04.22 社長コラム 「売れてる本」の定義(出版業界こぼれ話) 「あの本、売れてますか?」「売れてますよ~」書店員さんや出版社の人と会うと、こんな会話をよくします。軽い挨拶代わりで、会話のきっかけになるので便利なんです。「儲かってまっか?」「ぼちぼちでんな」みたいな感じです。 自分で言っておいてなんですが、この「売れている」という言葉、とても曖昧な言葉でして、実はいつもモヤっとしています。 「売れている」は、実際は「よく売れている」もしくは「たくさん売れている」を省略した言葉だと考えられます。しかし、何冊売れれば「売れている」と言えるかは、書店と本によって千差万別です。その書店の売上規模(集客力)や、その本の特性によって、全く異なるのです。当たり前ですけど。そこを合意しないまま話しているので、例えば 出版社:「どうですか、この本、売れてるでしょ?」書店さん:「いや~あまり売れてないね~」出版社:「(えー、他の書店さんよりもたくさん売れてるんだけどなぁ)」(※ 出版社の想定より売れていても、その書店さんが期待する水準に達していない) とか 出版社:「あの本、売れてますか?」書店さん:「よく売れてるよ!」出版社:「(あれ?データを見るとそんなに売れていない気がするけど)」(※ 同ジャンルの他の本よりも売れているので書店さんの評価が高い) といったすれ違いが日々起こっているのです。 「このお店のこの売り場で、このジャンルの本を置いてもらった場合、特定の期間(1週間、1か月など)で何冊売れれば“売れた”と認識されるのか?」というように具体的な目標設定を相互に確認すれば、こうしたすれ違いは避けられるのですが、実際にはいつも確認できているわけではありません。 認識の違いがあるといろいろよくないので、曖昧な使い方は控えようと思うものの、「売れてる」というのはやっぱり便利でついつい適当に使ってしまうのでした。「どう、売れてる?」という会話は景気づけの挨拶みたいなものですから、今後もなくならない気がします。理屈抜きの「なんか売れてるぞ!」という勢いが書店さんの売り場に活気を与えることもあるので、ムードもあながちバカにできません。ともあれ「誰がどう見ても売れている」というくらいのヒット作なら、思う存分「売れてますね!!」と言えるので、モヤっとすることはなさそうです。出版社としては、ぜひともそこを目指したいところです。